削りたての香りが立ちのぼるかつお節は、昆布と並ぶだしの主役です。完成したかつお節は木材のように硬く、たたくと高い音がします。この独特の保存食は、長い時間をかけて工夫が積み重ねられた結果、生まれたものでした。
古代の「堅魚」
カツオを干して保存する方法は、古代から行われていました。奈良時代の法律である大宝律令や養老令には、税として納める品目に「堅魚(かたうお)」「煮堅魚(にかたうお)」「堅魚煎汁(かたうおいろり)」などが見られます。
「堅魚」はカツオを干して固くしたもの、「煮堅魚」は煮てから干したもの、「堅魚煎汁」はカツオを煮た汁を煮詰めた調味料と考えられています。「カツオ」という名前自体が「かたうお(堅い魚)」に由来するという説もあります。
燻して乾かす「焙乾」の工夫
天日で干すだけでは中まで十分に乾かず、長く保存することはできません。江戸時代前期の17世紀後半、紀州(現在の和歌山県)の漁師が、煮たカツオを煙で燻しながら乾燥させる「焙乾(ばいかん)」の方法を土佐(現在の高知県)で広めたと伝えられています。
燻すことで水分が抜けやすくなるうえ、煙の成分によって傷みにくくなり、香りも増しました。この方法は土佐で改良され、やがて各地の産地へ伝えられていきました。
カビが生む「本枯節」
さらに江戸時代には、燻して乾かしたかつお節に、あえてカビを付けて熟成させる方法が生まれます。カビ付けと天日干しを何度も繰り返すことで、かつお節の中に残った水分がさらに抜け、脂肪が分解されて、雑味の少ない上品な香りとうま味が生まれます。
かつお節は、製法によっておおまかに次のように分けられます。
| 名称 | 製法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 荒節(あらぶし) | 煮熟・焙乾まで | 燻した香りが強く、削り節の原料として広く使われる |
| 枯節(かれぶし) | 荒節の表面を削り、カビ付けを行う | 香りがまろやかになる |
| 本枯節(ほんかれぶし) | カビ付けと天日干しを何度も繰り返す | 長い時間をかけて熟成させた最上級品 |
かつお節の主な製造工程
伝統的な製法では、おおよそ次のような工程で作られます。
- 生切り:カツオを三枚におろし、さらに背と腹に切り分ける
- 煮熟(しゃじゅく):かごに並べて熱湯で煮る
- 骨抜き:身を崩さないよう、骨を一本ずつ抜く
- 焙乾:薪の煙で燻しながら乾かす。何日にもわたって繰り返す
- 削り:表面のタールや脂を削り落として形をととのえる
- カビ付け・日乾:カビを付けては天日に干す作業を繰り返す
本枯節が完成するまでには、数か月から半年ほどかかるといわれます。
削り節パックの登場
かつては各家庭で、かつお節削り器を使って必要な分だけ削るのが当たり前でした。1969年、東京・日本橋のかつお節店「にんべん」が、削ったかつお節を小袋に詰め、窒素を充填して風味を保つ「フレッシュパック」を発売します。これにより、削りたてに近い風味を手軽に楽しめるようになり、削り節は家庭の常備品として定着しました。
現在、かつお節の主な産地は、鹿児島県の枕崎市や指宿市(山川)、静岡県の焼津市などです。かつお節のうま味成分イノシン酸と、昆布のグルタミン酸の関係については「昆布と「うま味」の発見」で紹介しています。
まとめ
- 古代から、カツオを干した「堅魚」や「煮堅魚」が税として納められていた
- 江戸時代、煙で燻して乾かす焙乾法が広まり、保存性と香りが高まった
- カビ付けによる熟成で、上品な香りの本枯節が生まれた
- 1969年の削り節パックの登場で、かつお節はより身近な食材になった
煮る、燻す、カビを付ける、干す。何か月もの手間を惜しまずに作られるかつお節は、日本の保存と発酵の技術が凝縮された食品といえるでしょう。