味噌汁、納豆、漬物。昔ながらの日本の朝ごはんには、発酵食品がずらりと並びます。発酵は、微生物の働きによって食材の保存性を高め、新しい味や香りを生み出す技術です。日本の風土のなかで、人々はこの目に見えない微生物とうまく付き合ってきました。
日本の発酵を支える「麹菌」
日本の発酵食品の多くに欠かせないのが、麹菌(こうじきん)と呼ばれるカビの一種です。蒸した米や麦、大豆に麹菌を繁殖させたものを「麹」といい、麹に含まれる酵素がでんぷんやたんぱく質を分解して、甘みやうま味を生み出します。
味噌、醤油、日本酒、みりん、酢など、和食の基本となる調味料の多くは麹の力を借りて作られています。2006年には、日本醸造学会が麹菌を「国菌」に認定しました。
味噌:「未醤」から味噌汁へ
味噌の起源は、古代中国の「醤(ひしお)」や「豉(し)」といった発酵食品にさかのぼると考えられています。奈良時代の文献には「未醤(みしょう)」という言葉が見られ、これが味噌の語源になったという説があります。
当初の味噌は、そのままなめたり、料理につけたりして食べるものでした。鎌倉時代になると、すり鉢で味噌をすりつぶし、湯に溶いて飲む「味噌汁」が広まったといわれます。ご飯に汁物とおかずを添える食事の形とともに、味噌汁は日本人の食卓の中心になっていきました。
使う麹の原料によって、味噌は大きく3つに分けられます。
- 米麹を使う「米味噌」:全国で最も多く造られている
- 麦麹を使う「麦味噌」:九州や四国、中国地方の一部で親しまれる
- 大豆そのものに麹菌をつける「豆味噌」:愛知・岐阜・三重の東海地方で造られる
気候や原料の違いによって、地域ごとに色も味も異なる味噌が生まれました。
納豆:稲わらが育てた発酵食品
糸を引く納豆は、稲わらにすむ納豆菌の働きで、蒸した大豆を発酵させた食品です。煮た大豆をわらで包んでおいたところ自然に発酵した、という偶然から生まれたとする言い伝えが各地に残っていますが、正確な起源はわかっていません。
なお、京都の大徳寺納豆などの「寺納豆」は、麹菌を使って発酵させ、塩水に漬けてから乾燥させたもので、糸引き納豆とは製法も味もまったく異なります。
稲わらを使う昔ながらの方法では、品質が安定しにくいという課題がありました。大正時代になると、北海道帝国大学の半沢洵(はんざわじゅん)らが、純粋に培養した納豆菌を使う製造法を研究・普及させ、衛生的で安定した納豆づくりが広まっていきました。
漬物:塩・ぬか・酒かすの知恵
野菜を塩に漬けて保存する方法は、古代から行われていました。平安時代の法令集『延喜式』には、塩漬けのほか、醤や酒かすなどを使ったさまざまな漬物が記録されています。
江戸時代になると、精米した白米を食べる習慣が都市を中心に広まり、精米のときに出る米ぬかを使った「ぬか漬け」が身近なものになりました。大根をぬかと塩で漬けた「たくあん漬け」も、この時代に広まった代表的な漬物です。
漬物は、野菜の少ない冬を越すための保存食であると同時に、ご飯のおかずとして食卓に欠かせない存在でした。各地には、野沢菜漬け、すぐき漬け、いぶりがっこなど、気候と風土を映した漬物が数多く伝わっています。
まとめ
- 日本の発酵食品の多くは、麹菌が生み出す酵素の働きに支えられている
- 味噌は古代の発酵食品をルーツにもち、鎌倉時代ごろから味噌汁として広まった
- 糸引き納豆は稲わらの納豆菌による発酵食品で、大正時代に純粋培養による製法が普及した
- 漬物は古代から続く保存の知恵で、江戸時代にはぬか漬けやたくあんが広まった
目に見えない微生物の力を借りて、食べものを長く、おいしく保つ。発酵の知恵は、いまも日本の食卓の土台であり続けています。